私たちのタイム計測はICチップを用いておこないますが、ICチップは
万能ではなく、様々なトラブルやアクシデントが発生しうることは
これまでもコラムで取り上げてきました(バックナンバーご参照下さい)。
今回は「計測のバックアップ方法」について書きたいと思います。
私たちはICチップだけを過信しません。計測には必ずバックアップが
必要です。計測におけるトラブルやアクシデントは多種多様なものが
発生しえますが、大別する以下のようになると思います。
●参加者に起因するトラブル
・ICチップの付け忘れ、仲間との付け間違い。
・レースに欠場あるいは途中棄権したのにICチップを持ったまま
アンテナ付近を通過して誤った記録が残ってしまった。ほか。
●人為的なオペレーションミス
・ハードウェア、ソフトウェアの操作ミス、設定ミス。ほか。
●機械的、システム的なトラブル
・ハードウェアの故障、ケーブルの断線。ほか。
こういったトラブルやアクシデントは発生させない努力はもちろん
必要ですが、全てを100%防ぐことは現実的には難しいことです。
起こりうるということを想定し、起こった場合にいかにフォローを
するかが大切であり、そのノウハウも計測ディレクターの腕の見せ所
でもあります。
こういった場合に備えて私たちがどんなバックアップ方法を取って
いるか簡単にご紹介したいと思います。
(1)計測システムを二重に設置する。
→たとえばマラソンのフィニッシュ地点にアンテナを設置
しますが、その後方にもう1つバックアップ用のアンテナ
を設置する。もしメインシステムが故障しても、後方の
サブシステムで計測が可能になります。
使用する計測システムの特性や予算との兼ね合いで、
毎回すべての現場で実践できるとは限りませんが、基本的
かつ安心できる方法です。
(2)目視によるバックアップ
→スタッフが目視で着順を書き込んでいきます。原始的ですが
必ずおこなうバックアップでもあります。数千人、数万人の
参加者すべてを書き込むのは不可能ですが、少なくとも
上位入賞者のチェックは必ず目視でもおこないます。
(3)映像によるバックアップ
→ビデオカメラをフィニッシュ地点に設置して、フィニッシュ
する選手を撮影します。これは万が一、何か発生した場合に
映像によって確認ができる、いわば最後の手段です。
もっとも、こういったバックアップ手段のそれぞれは単なる材料の1つで
あって、それらを組み合わせることで「正しい計測結果」を導き出さなく
てはいけません。すぐにリカバリーできることもあれば、膨大な時間が
かかることもあります。こういう時に計測ディレクターに一番求められる
のは「経験」です。過去に類似のトラブルを経験していれば、原因や
解決策に容易に至れるでしょう。反対に初めて遭遇するトラブルでは
時間がかかるでしょう。また「直感」も必要です。トラブル対応が長引けば
長引くほど、多方面への影響が大きくなっていきます。この状況だと今すぐ
のリカバリーは不可能だと判断したら、速やかに大会主催者様と対応を協議
しなければならなくなります。そういった見極めには直感も必要です。
いずれにしても、
バックアップはタイム計測の基本中の基本
と言っても差し支えないでしょう。
このバックアップをめぐる具体的なエピソードも別の機会にご紹介
したいと思います。