vol. 023 「グロスタイムとネットタイム」

さて、今回のコラムではグロスタイムとネットタイムについて書きたいと思います。市民マラソン用語ですが、知っている方は知っていて、知らない方は知らないという典型的な専門用語ですね。

まずは定義から、

●グロスタイム
スタートの号砲(ピストル)が鳴ってから、その人がフィニッシュするまでのタイム。つまり当たり前の普通のタイム。
市民マラソンの場合、数千人・数万人が参加するような大規模なレースでは、スタートは長蛇の列となるため、後方にいる人は号砲が鳴ってからスタートラインに到達するまでに大きなロスタイムが発生する。後方からスタートする人ほど不利になる。
たとえばフルマラソンに参加して3時間01分00秒でフィニッシュした人がいたとして、その人は列の後方からスタートして、スタートラインに到達するまでに2分30秒かかっていたとしたら、もしその人が最前列からスタートしていればタイムは2分30秒速くなっていたということになります。(3時間01分00秒→2時間58分30秒)
 
●ネットタイム
その人がスタートラインに到達した時からフィニッシュするまでのタイム。つまり、その人が走るのに所要した本当のタイム。
この場合、スタートで後方にいる人でも不利にならない。先ほどの例だと、ネットタイムは2時間58分30秒で、グロスタイムが3時間01分00秒ということになります。

こう書くと、グロスタイムは不公平で、ネットタイムのほうが公平なように思われるかも知れませんが、そう一筋縄でもありません。

まずは、ルール面の問題があります。市民マラソンも、大きな範疇では陸上競技に属するスポーツと言えます。陸上競技にはルールがあります。
特に日本陸上競技連盟が公認する大会は厳密にルールに則っておこなわれます。陸上競技のルールではタイムはあくまでもグロスタイムが公式と定められており、ネットタイムは採用できません。

市民マラソンの場合、公認大会でなければ上記の陸連ルールに従う必要はなく、もし大会主催者がネットタイムを正式記録として採用したければそれは自由です。ですが現実的にはネットタイムを計測することはあってもあくまでも公式記録はグロスタイムで、ネットタイムは参考記録として提供という形が大部分です。


なぜならば、ネットタイムを正式にすると大会運営面で以下のようなデメリットも存在するからです。

ネットタイムで順位を付けると、見た目の順位とは異なる順位となります。これが最大の問題点です。たとえば、

順位 グロスタイム    (ネットタイム) (ネット順位)
1位 2時間50分00秒 →(2時間49分58秒)(2位)  
2位 2時間50分15秒 →(2時間49分55秒)(1位)
3位 2時間52分04秒 →(2時間52分02秒)(6位)
4位 2時間52分05秒 →(2時間51分57秒)(5位)
5位 2時間52分06秒 →(2時間51分56秒)(4位) 
6位 2時間52分07秒 →(2時間51分33秒)(3位)

ということがあり得ます。見た目では1位にフィニッシュした人がネットタイムでは2位だったり、見た目では6位の人がネットタイムでは3位だったり。

こうなると、走っている本人たちも自分の順位というのが、最後までわかりませんし、応援している人、大会を運営している人にとってもわかりません。これは結構な不都合があるようです。多くの大会では上位入賞者を表彰しますが、通常は上位選手がフィニッシュするとそのまま表彰式に案内されるものですが、ネットタイムだとそれが出来ません。

また、多くの大会では走り終わった選手に完走証を発行しており、完走証にはその人のタイム・順位が印刷されるのですが、ネットタイムの場合、タイムは印刷できても順位が印刷できないのです。なぜなら、ネットタイムの順位は全選手が走り終えないと確定できないからです。

以上のようなことから、市民マラソンでも、公式記録はグロスタイムとグロス順位で、ネットタイムはあくまでも参考記録として提供というパターンが多いのです。

ただ、もちろん走った本人にとっては、ネットタイムが本当のタイムだと思って間違いありません。「自己ベストタイムは?」と聞かれたときにネットタイムで答えても問題ないことです。


このようにグロスタイムとネットタイムにはそれぞれの特性があり、それらを知っておくことは大切なことです。